建築物省エネ法は、住宅や非住宅建築物の省エネルギー性能を確保し、建築物分野のエネルギー消費を抑えるための法律です。
2025年4月1日からは制度が大きく変わり、原則としてすべての新築住宅・非住宅建築物に省エネ基準への適合が義務付けられました。
そのため現在は、戸建住宅や小規模な建築物であっても、設計段階から断熱性能や設備のエネルギー消費性能を確認することが重要です。
この記事では、建築物省エネ法の基本から、2025年4月に始まった省エネ基準適合義務化、住宅・非住宅で異なる評価基準、省エネ適判、2026年時点で実務者が確認しておきたいポイントまで整理します。
建築物省エネ法とは
建築物省エネ法は、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、省エネ性能に関する基準や各種手続きを定めている法律です。
住宅やオフィス、店舗、学校、病院などでは、暖房・冷房・給湯・照明・換気といった設備によって多くのエネルギーが使用されます。
そこで、建物そのものの断熱性能を高めたり、高効率な設備を採用したりすることで、建築物を使用するときのエネルギー消費を抑えることが重要になります。
2025年4月1日には省エネ基準適合義務の対象が大幅に拡大され、これまで対象外だった小規模な住宅や非住宅も含め、原則としてすべての新築建築物が対象になりました。
2026年現在、建築物省エネ法は一部の大規模建築物だけに関係する制度ではなく、戸建住宅を含めた新築計画全般で確認が必要な制度になっています。
2025年4月から原則すべての新築建築物が省エネ基準適合義務の対象に
2025年4月1日以降に工事へ着手する建築物では、省エネ基準適合義務の対象が拡大されています。
改正前は、建物の用途や規模によって「適合義務」「届出義務」「説明義務」など扱いが分かれていました。
現在は制度が整理され、原則としてすべての新築住宅・非住宅建築物について、省エネ基準を満たすことが求められます。
| 項目 | 2025年4月以降 |
|---|---|
| 新築住宅 | 原則として省エネ基準への適合が必要 |
| 新築非住宅 | 原則として省エネ基準への適合が必要 |
| 増改築 | 原則として増改築を行う部分について基準適合を確認 |
| 従来の届出制度 | 適合義務の拡大に伴い廃止 |
ただし、「すべて」という表現には注意が必要です。
例えば、床面積が10㎡以下となる建築物の建築など、省エネ基準への適合義務の対象外となるケースがあります。そのため、実際の案件では建物の規模・用途・工事内容を確認した上で対象かどうかを判断します。
増改築では建物全体ではなく増改築部分が基本
増改築についても2025年4月から考え方が変更されています。
改正後は、原則として増改築を行う部分について省エネ基準への適合を確認する仕組みになっています。
例えば増築部分では、外壁・屋根・窓などの断熱性能や、空調・照明などの設備性能を確認し、対象部分が基準を満たしているかを判断します。
新築と増改築では基準適合の範囲が異なるため、申請前に区別しておくことが重要です。
省エネ基準は住宅と非住宅で異なる
建築物省エネ法における省エネ基準を理解するときは、住宅と非住宅を分けて考える必要があります。
| 用途 | 主に確認する基準 |
|---|---|
| 住宅 | 外皮性能基準+一次エネルギー消費量基準 |
| 非住宅 | 一次エネルギー消費量基準 |
住宅では外皮性能を確認する
住宅では、建物の外壁・屋根・床・窓などを通じて、どの程度熱が出入りするかを確認します。
代表的な指標が、外皮平均熱貫流率のUA値と、冷房期の平均日射熱取得率であるηAC値です。
UA値は建物から熱が逃げる程度を表す指標で、基本的には値が小さいほど断熱性能が高くなります。
一方、ηAC値は夏期に外部から取得する日射熱の程度を示す指標です。
必要となる外皮性能は地域区分によって異なるため、建築地に対応した基準を確認します。
住宅・非住宅とも一次エネルギー消費量が重要
もう一つ重要なのが一次エネルギー消費量です。
建築物では、暖房、冷房、換気、給湯、照明などの設備によってエネルギーを使用します。これらを共通の基準で評価するために用いられるのが一次エネルギー消費量です。
省エネ性能を確認するときには、基準となる建築物の一次エネルギー消費量と、実際に設計した建築物の一次エネルギー消費量を比較します。
その際に使われる代表的な指標がBEI(Building Energy-efficiency Index)です。
BEIは基本的に、設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で割って求めます。値が小さいほど、基準建物と比較してエネルギー消費量が少ないことを意味します。
ただし、求められるBEIの水準は建築物の用途や規模、適用される制度によって異なるため、「すべての建物でBEIが1.0以下ならよい」と一律に判断しないことが重要です。
BEIについて詳しく確認したい場合は、以下の記事で計算の考え方や一次エネルギー消費量との関係を解説しています。
省エネ適判はすべての建築物で必要なのか
省エネ基準への適合が義務化されたことで、「すべての建築物で省エネ適判を受けなければならない」と考えてしまうことがあります。
しかし、省エネ基準への適合義務と、省エネ適合性判定を受ける義務は同じものではありません。
省エネ基準への適合が必要な建築物であっても、建物の条件や評価方法によっては、省エネ適判の手続きを省略できる場合があります。
代表例の一つが住宅で仕様基準を利用する場合です。
仕様基準では、断熱材の種類や厚さ、窓、設備などについて定められた仕様を採用することで、省エネ計算を行わずに基準への適合を確認できます。
国土交通省は、住宅について規模にかかわらず仕様基準を利用する場合、省エネ適判手続きを不要とする仕組みを設けています。
また、建築確認の対象外となる一定の建築物や、建築基準法上の審査・検査省略の対象となる一定の小規模建築物などについても、手続きが異なります。
したがって実務では、まず「省エネ基準適合義務の対象か」を確認し、その次に「どの評価方法を利用するか」「省エネ適判が必要か」を判断するのが基本です。
出典:国土交通省「適合性判定の手続き・審査の合理化について」
建築物省エネ法への対応は設計段階から始まる
省エネ基準への適合をスムーズに進めるためには、確認申請の直前になってから対応するのではなく、設計初期から必要な性能を整理しておくことが重要です。
実務では、概ね次の流れで検討します。
- 建物の用途・規模・工事内容を確認する
- 省エネ基準適合義務の対象か確認する
- 住宅・非住宅に応じた評価方法を選ぶ
- 外皮仕様や設備仕様を決める
- 必要に応じて省エネ計算を行う
- 省エネ適判または建築確認で必要な図書を準備する
- 設計内容と施工内容の整合を確認する
- 建築確認・完了検査の対象となる場合は、必要な審査・検査を受ける
特に注意したいのが、設計段階と施工段階の仕様変更です。
断熱材、窓、空調、給湯、照明などを変更すると、省エネ計算の結果も変わる可能性があります。
確認申請後に設備や仕様を変更する場合は、その変更が省エネ基準への適合に影響しないか確認する必要があります。
設計担当者だけでなく、設備設計者、施工担当者、申請担当者の間で使用する図面や仕様をそろえておくことが重要です。
2026年時点では非住宅の省エネ基準強化にも注意
建築物省エネ法への対応は、2025年4月の全面義務化で完了したわけではありません。
2026年度からは、中規模の新築非住宅建築物についても省エネ基準が引き上げられています。
そのため、非住宅建築物では「2025年に全面義務化されたから、BEIが従来と同じ水準ならよい」と考えるのではなく、建物の床面積や用途に対応した最新の基準値を確認する必要があります。
国土交通省では、建築物省エネ法の法令、計算方法、仕様基準、適合性判定の様式などを随時更新しています。
特に非住宅建築物や規模の大きい案件では、設計開始時点と申請時点で制度が変わっていないか確認することが重要です。
4号特例の見直しや壁量計算は建築基準法の改正として整理する
2025年4月には、省エネ基準適合義務化と同じタイミングで、木造建築物に関する建築確認や構造規定も大きく見直されました。
そのため、建築物省エネ法と「4号特例の縮小」「新2号建築物・新3号建築物」「壁量基準の見直し」などが一緒に説明されることがあります。
ただし、これらは省エネ基準そのものではなく、主に建築基準法側の改正内容です。
制度を理解するときは、省エネ性能に関する建築物省エネ法と、構造・確認申請に関する建築基準法を分けて整理すると分かりやすくなります。
建築物省エネ法でよくある疑問
既存建築物もすべて省エネ基準に適合させる必要がありますか?
2025年4月からの全面義務化は、原則として同日以降に工事へ着手する新築建築物などが中心です。
既存建築物が存在するだけで、直ちに現在の新築省エネ基準へ適合させなければならないという制度ではありません。
ただし、増改築を行う場合などは対象となる可能性があるため、工事内容ごとの確認が必要です。
BELSを取得すれば省エネ基準への適合手続きは不要ですか?
BELSは建築物の省エネ性能を第三者が評価・表示する制度です。
建築物省エネ法に基づく基準適合の手続きとは目的や仕組みが異なるため、「BELSを取得すれば省エネ適判や確認申請上の確認がすべて不要になる」と単純には判断できません。
BEIだけ確認すれば住宅の省エネ基準を満たせますか?
住宅では一次エネルギー消費量基準だけでなく、外皮性能基準への適合も必要です。
そのためBEIだけを見るのではなく、UA値やηAC値などを含めて住宅の省エネ性能を確認します。
まとめ
2025年4月1日から、建築物省エネ法に基づく省エネ基準適合義務の対象が拡大され、原則としてすべての新築住宅・非住宅建築物で基準への適合が必要になりました。
ただし、床面積10㎡以下の建築など一部の対象外があり、省エネ適判についてもすべての建築物で一律に必要となるわけではありません。
住宅では外皮性能と一次エネルギー消費量、非住宅では一次エネルギー消費量を中心に確認し、建築物の用途・規模・評価方法に応じた手続きを選択します。
また、2026年度には中規模非住宅建築物の省エネ基準も引き上げられており、今後も制度や基準の更新を確認しながら設計・申請を進めることが重要です。
建築物省エネ法への対応では、確認申請直前に省エネ計算だけを行うのではなく、設計初期から断熱仕様、設備仕様、申請方法まで整理しておくことで、設計変更や審査の手戻りを抑えやすくなります。
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