はじめに
建築業界において環境配慮への要求が年々高まる中、「建築物省エネ法」への適合は避けて通れない重要課題となりました。しかし、いざ設計や申請業務を進めようとすると、専門用語の多さや計算の複雑さに頭を悩ませる実務者の方も少なくありません。特に、法の判定基準の核となる「一次エネルギー」消費量の概念は、建物の評価に直結する重要な要素です。
「なぜ二次エネルギーではなく一次エネルギーで換算するのか」「BEI(省エネルギー性能指標)をどうコントロールすればよいのか」。こうした疑問を解消することは、スムーズな設計業務を行う上で必須と言えます。
この記事では、建築物省エネ法と一次エネルギーの密接な関係について、基礎から実務での活用ポイントまでを分かりやすく解説します。法適合判定や届出業務において、どの数値をどう読み解くべきかが明確になり、クライアントへの説明力も向上するはずです。
本文
一次エネルギー消費量の概念と重要性

まず、建築物省エネ法を理解する上で大前提となるのが「一次エネルギー」の正体です。私たちが普段建物の中で使用している電気や都市ガスなどは、使いやすい形に加工された「二次エネルギー」と呼ばれます。しかし、省エネ法では環境への負荷を公平に評価するために、化石燃料(石油・石炭・天然ガス)などの自然界に存在する状態まで遡ってエネルギー量を換算します。これが一次エネルギー消費量です。
建物ごとの省エネ性能を測る際、電気だけを使う建物とガスも併用する建物を単純比較することはできません。そこで、すべてのエネルギーを「一次エネルギー(ジュール/J)」という共通の単位に換算することで、設備機器の効率や建物の断熱性能を統一的な基準で評価することが可能になります。この換算プロセスこそが、法適合判定における計算の基礎となります。
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一次エネルギーの計算方法や、なぜこの指標が採用されているのかについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
一次エネルギー消費量の基礎知識|計算の仕組みと重要ポイント
建築物省エネ法における評価基準(BEI)
建築物省エネ法において、一次エネルギー消費量は「BEI(Building Energy Index)」という指標を算出するために用いられます。BEIは、「設計一次エネルギー消費量」を「基準一次エネルギー消費量」で割ることで求められる数値です。
簡単に言えば、「その建物が標準的な建物と比べて、どれくらいエネルギーを削減できているか」を表す成績表のようなものです。このBEIの値が1.0以下であれば省エネ基準に適合していると判断され、数値が小さいほど省エネ性能が高いことを意味します。実務においては、このBEIをいかにして1.0以下(ZEBを目指す場合は0.5以下など)に抑えるかが、設計者の腕の見せ所となります。
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建築物省エネ法の全体像や、最新の法改正による義務化の範囲について確認しておきたい方は、こちらの解説記事が役立ちます。
【建築物省エネ法】法改正のポイントと実務への影響を総まとめ
実務での活用と数値改善のテクニック
実際の設計実務において、一次エネルギー消費量を削減し、建築物省エネ法をクリアするためには、大きく分けて二つのアプローチがあります。一つは「建築的要素」の強化、もう一つは「設備的要素」の効率化です。
建築的要素としては、外皮(屋根、外壁、窓)の断熱性能を高めることが挙げられます。断熱性能が上がれば空調負荷が下がり、結果として設計一次エネルギー消費量が減少します。一方、設備的要素では、高効率な空調機やLED照明、全熱交換器などの採用が効果的です。特に照明設備は一次エネルギー消費量全体に占める割合が大きいため、調光制御や人感センサーを導入・活用することで、大幅な数値改善が見込めるケースが多くあります。
また、近年では太陽光発電設備による「創エネ」分を一次エネルギー消費量から差し引くことも可能です(再生可能エネルギーの活用)。ただし、評価対象となる部分とならない部分があるため、計算プログラムに入力する際は細心の注意が必要です。このように、建築物省エネ法と一次エネルギーの関係を正しく理解し、どの要素を調整すればBEIが改善するかを把握しておくことは、コストと性能のバランスが取れた設計を行うための強力な武器となります。
まとめ
本記事では、建築物省エネ法と一次エネルギーの密接な関係性、そして実務における具体的な活用方法について解説してきました。
要点を整理すると、一次エネルギー消費量は異なるエネルギー源を統一して評価するための「共通言語」であり、建築物省エネ法における適合判定(BEI)の根幹をなす数値です。この仕組みを深く理解することで、単に法規制をクリアするだけでなく、より効率的で環境価値の高い建物を提案できるようになります。
外皮性能の向上や高効率設備の選定といった日々の設計業務の中に、今回解説した一次エネルギーの視点を積極的に取り入れてみてください。計算結果の裏にあるロジックを把握していれば、審査機関とのやり取りもスムーズになり、自信を持って省エネ設計を進めることができるでしょう。


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