1. はじめに
「防火構造」という言葉を聞くと、「火に強い頑丈な建物(コンクリート造など)」をイメージするかもしれませんが、法律上の意味は少し違います。
建築基準法には火災に対する強さのランクがあり、
- 耐火構造(最強:ビル・マンションなど)
- 準耐火構造(中堅:しっかりした木造・鉄骨など)
- 防火構造(基本:一般的な木造住宅の外壁など)
という順になっています。今回解説する建築基準法第2条第8号の「防火構造」は、都市部の木造住宅において「隣家が火事になったとき、もらい火を防ぐための基本的な性能」を指します。
2. 条文全文
まずは法律の原文を確認しましょう。
第二条八号 防火構造 建築物の外壁又は軒裏の構造のうち、防火性能(建築物の周囲において発生する通常の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄網モルタル塗、しつくい塗その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。
3. 条文をやさしく言い換えると?
この条文を噛み砕くと、以下のようになります。
「隣の家が火事になったとき、その熱で自分の家の『外壁』や『軒裏』が燃え上がらないように、持ちこたえることができる構造のこと」
防火構造とは、外部から火が当たった際に、延焼を抑える性能を備えた外壁や軒裏の構造を指します。
ポイントは2つです。
- 守るのは「外からの火事」: 家の中で火事が起きたことではなく、あくまで「隣からの延焼」を防ぐことが目的です。
- 対象は「外壁」と「軒裏」だけ: 柱や床の話ではなく、家の「外側の皮(スキン)」の話です。
4. 専門用語の詳しい解説
条文内のキーワードを、実務レベルで解説します。
① 防火性能
外部火災に対して、一定時間、炎の貫通・裏面温度上昇・亀裂などを防ぐ性能です。
具体的に「どれくらいの強さ」が必要かというと、施行令(第108条)で「30分間」と決められています。
隣家が火事になり、自分の家の壁に炎や熱が当たっても、30分の間は壁が燃え抜けず、構造材(柱など)に着火しない性能が必要です。 ※ちなみに「準耐火構造」は45分~1時間、「耐火構造」は1時間以上の性能が求められます。
② 外壁(がいへき)
建物の外側の壁です。火災時には隣棟間延焼の主要経路となるため、防火性能が求めらます。
- 実務上のポイント: サイディングやモルタルそのものだけでなく、その下にある「下地(石膏ボードなど)」や「断熱材」を含めた壁全体の構成で性能を判断します。
③ 軒裏(のきうら)
屋根が壁から飛び出した部分の「裏側(下側)」のことです。 火災の炎は窓から噴き出して上に巻き上がる性質があるため、軒裏は最も火にさらされやすい弱点です。ここもしっかりガードする必要があります。
④ 鉄網(てつもう)モルタル塗
昔ながらの工法です。金網(ラス網)を張って、その上からモルタルを塗った壁のこと。 法律ができた当初はこれが主流でしたが、現代では少なくなりました。
⑤ 国土交通大臣の認定を受けたもの(認定工法)
現代の主流です。 「サイディング」や「ALCパネル」など、メーカーが実験を行い、「この材料とこの下地を組み合わせれば30分耐えられます」と大臣にお墨付きをもらった製品・工法のことです。
5. 具体的にどんな壁が「防火構造」?
例A:昔ながらの「モルタル外壁」
- 構造: 木造の柱の上に、板(木摺)や防水紙を貼り、金網を打ち付け、モルタルを厚さ20mm以上塗ったもの。
- 判定: これだけで「防火構造」と認められます(告示仕様)。
例B:今どきの「窯業系サイディング外壁」
- 構造: 木造の柱 + 石膏ボード + 防水紙 + 窯業系サイディング(厚さ14mm以上など)。
- 判定: カタログに「防火構造認定番号:PC030BE-〇〇〇〇」と記載がある組み合わせで施工すればOKです。
- 注意: サイディング単体では防火構造にならず、「下に石膏ボードを貼ること」が条件になっている製品も多いです。
例C:軒裏のボード張り
- 構造: 軒天に「ケイ酸カルシウム板(ケイカル板)」厚さ12mm以上を貼る。
- 判定: これで防火構造になります。普通のベニヤ板(有孔合板など)ではダメです。
6. 例外と注意点
防火構造は主に
延焼のおそれのある部分(外壁3m / 5m)で必要となるが、例外も存在します。
● ① 延焼のおそれのない部分

- 川・公園・広場・耐火壁などに面する外壁
→ 防火構造の義務がない。(詳しくはこちらの記事)
● ② 特殊建築物のうち、防火上特例がある場合
(例:倉庫系用途で外壁開口が極端に少ないなど)
規模によって要求が緩和されるケースもある。
窓やドアは含まれない
条文の主語は「外壁又は軒裏」です。「窓(開口部)」は防火構造の定義には含まれません。 ただし、延焼のおそれのある部分にある窓は、別の条文(法2条9号の2ロなど)で「防火設備(網入りガラスなど)」にすることが義務付けられます。「壁は防火構造、窓は防火設備」とセットで覚える必要があります。
準耐火・耐火構造との関係
「防火構造にしなさい」と言われた場所で、より防火性能の高い「準耐火構造」や「耐火構造」を作ることは問題ありません(大は小を兼ねる)。 逆に、「準耐火構造にしなさい」と言われた場所で、ランクの低い「防火構造」を作ることは違法です。
7. 建築確認申請との関係
建築士が確認申請を行う際、防火構造は以下のように扱われます。
① 適用される地域の確認
まず、敷地が「法22条区域(屋根不燃区域)」や「準防火地域」にあるか確認します。
- 法22条区域: 木造2階建てでも、延焼ラインにかかる外壁は「防火構造」にする義務があります。
- 防火地域: 基本的に防火構造では能力不足で、耐火構造などが求められます。
② 図面への記載(矩計図・仕上表)
設計図書には、単に「サイディング張り」と書くのではなく、 「外壁:防火構造(PC030BE-xxxx)」 のように、認定番号まで記載するのが一般的です。
③ 現場検査でのチェックポイント
- 釘・ビスの間隔: 認定通りの間隔で打たれているか。
- 下地の種類: サイディングの下に石膏ボードが必要な認定なのに、省略されていないか。 これらが守られていないと、検査に合格できず、最悪の場合は**「外壁を剥がしてやり直し」**という大惨事になります。
8. まとめ
建築基準法第2条8号「防火構造」は、 「都市部の木造住宅において、隣の火災から30分間、外壁と軒裏を守る性能」 のことです。
家を建てる際、外壁のデザインや色に目が行きがちですが、「その壁、本当に燃えませんか?(認定は取れていますか?)」という視点を持つことが、家族と財産を守る第一歩になります。


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