建設業界や製造業において、設備の保全方法として「CBM(Condition Based Maintenance)」という言葉を耳にする機会が増えています。これは従来の時間基準保全(TBM)とは異なる、設備の状態を監視しながら最適なタイミングで保全を行う手法です。本記事では、CBMの基本概念から実務での活用方法まで、建設業に携わる方が知っておくべきポイントを詳しく解説します。
📋 この記事でわかること
- ✅ CBMの定義と基本的な考え方
- ✅ TBMやBMとの具体的な違いと使い分け
- ✅ 建設業でCBMを導入する際の実務的なポイント
1. CBM(状態基準保全)とは
CBMは「Condition Based Maintenance」の略称で、日本語では「状態基準保全」または「状態監視保全」と呼ばれます。設備や機械の劣化状態を継続的に監視し、その状態に応じて最適なタイミングで保全作業を実施する手法です。
従来の「壊れたら直す」や「定期的に点検する」という方法とは異なり、CBMでは設備の現在の状態を客観的なデータで把握します。振動計測、温度監視、油分析などの診断技術を用いて、設備が故障する前兆を検知し、必要な時だけメンテナンスを行うのが特徴です。
建設現場では、クレーンや揚重機、コンクリートポンプ車といった大型機械設備にCBMを適用することで、突発的な故障による工期遅延を防ぎつつ、過剰な保全コストを削減できます。国土交通省が推進する「i-Construction」の文脈でも、IoTセンサーを活用した設備管理の一環としてCBMへの注目が高まっています。
2. CBMが注目される背景と目的
CBMが建設業界で重要視されるようになった背景には、設備の高度化・複雑化と保全コストの増大という2つの課題があります。建設機械は年々精密化が進み、一度故障すると復旧に多額の費用と時間がかかるようになりました。
従来の時間基準保全(TBM)では、メーカー推奨の定期点検サイクルに従って部品交換や整備を行いますが、実際の使用状況や環境条件によっては、まだ十分に使える部品を交換してしまうケースも少なくありません。このような過剰保全は、部品コストや作業時間の無駄につながります。
一方で、保全を怠れば突発故障のリスクが高まり、工期遅延や安全事故の原因となります。CBMはこの「過剰保全」と「保全不足」の間で最適なバランスを取るために生まれた手法です。設備の実際の状態を数値で把握することで、必要な時に必要な保全だけを行い、設備稼働率の向上とライフサイクルコストの削減を同時に実現できます。
3. CBMと他の保全方式との違い
保全方式には大きく分けて事後保全(BM)、時間基準保全(TBM)、状態基準保全(CBM)の3種類があります。それぞれの特徴と使い分けを理解することが、効果的な設備管理の第一歩です。
事後保全(BM:Breakdown Maintenance)との違い
事後保全は「壊れてから直す」という最もシンプルな保全方式です。設備が故障するまで何もせず、故障が発生した時点で修理や交換を行います。BMは予防的な保全コストがかからない反面、突発的な故障によって工期に大きな影響を与えるリスクがあります。
CBMは故障の「予兆」を捉えて事前に対処するため、突発故障のリスクを大幅に低減できます。ただし、継続的な状態監視のためのセンサーやシステムへの初期投資が必要です。重要度の低い補助設備にはBMを適用し、工期に直結する主要設備にはCBMを適用するといった使い分けが実務では一般的です。
時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)との違い
TBMは稼働時間や経過日数といった時間を基準に、定期的に点検・整備を行う方式です。「500時間ごとにオイル交換」「年1回の法定点検」といった計画的な保全活動がTBMに該当します。
TBMは保全計画が立てやすく、作業員の配置や部品の手配がしやすいメリットがあります。しかし、実際の設備状態に関わらず一律のタイミングで保全を行うため、まだ使える部品を交換してしまう「過剰保全」や、逆に異常が発生しているのに次の点検まで気づかない「保全不足」が起こり得ます。
CBMは設備の実際の劣化状態を監視するため、TBMよりも保全タイミングの精度が高くなります。振動値が基準を超えたら軸受けを交換する、油の分析結果が悪化したらオイルを交換するといった形で、必要な時だけ保全を実施できます。ただし、状態監視のための測定装置やデータ分析の仕組みが必要になります。
| 保全方式 | 実施タイミング | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| BM(事後保全) | 故障発生時 | 予防コストゼロ | 突発故障リスク大 |
| TBM(時間基準保全) | 定期的(時間・日数) | 計画しやすい | 過剰保全の可能性 |
| CBM(状態基準保全) | 状態異常検知時 | 最適タイミング・コスト削減 | 初期投資・技術必要 |
4. CBMの具体的な実施方法と診断技術
CBMを実際に導入するには、設備の状態を客観的に把握するための診断技術が不可欠です。建設業で用いられる主な診断手法と、それぞれの適用対象を見ていきましょう。
主要な診断技術
ポイント① 振動診断
回転機械(モーター、ポンプ、コンプレッサーなど)の軸受けやギアの劣化を検出する最も一般的な手法です。加速度センサーを設備に取り付け、振動の周波数や振幅を測定します。異常な振動パターンが検出されたら、軸受けの摩耗やアンバランス、ミスアライメント(軸ずれ)などの問題が推定できます。
建設現場では、タワークレーンの巻上げ機やコンクリートポンプ車の油圧ポンプに振動センサーを設置し、リアルタイムで状態を監視する事例が増えています。振動値が基準値の1.5倍を超えたらアラートを出し、保全担当者が詳細点検を行うといった運用が標準的です。
ポイント② 油分析(トライボロジー診断)
潤滑油や作動油のサンプルを採取し、成分分析を行うことで、設備内部の摩耗状態や汚染度を評価します。油中の鉄粉濃度が上昇していれば内部部品の摩耗が進行していることを示し、水分や異物の混入があれば密封不良や外部からの汚染が疑われます。
大型建設機械の油圧システムでは、定期的なオイル分析によって高価な油圧ポンプやシリンダーの突発故障を未然に防ぐことができます。分析頻度は使用環境にもよりますが、一般的には250〜500時間ごとにサンプリングを行います。
ポイント③ 温度監視
赤外線サーモグラフィや温度センサーを用いて、設備の発熱状態を監視します。モーターや軸受けの過熱は故障の前兆であり、電気系統の接続不良も温度上昇として現れます。サーモグラフィによる定期巡回点検と、常設温度センサーによる連続監視を組み合わせることで、異常の早期発見が可能です。
特に夏場の高温環境下で稼働する建設機械では、冷却系統の不具合を温度監視で検出することが重要です。エンジン冷却水温度が95℃以上で持続する場合、ラジエーターの目詰まりやサーモスタットの故障が疑われます。
ポイント④ 電流・電圧監視
電動機駆動の設備では、消費電流のパターンから負荷状態や絶縁劣化を推定できます。正常時と比べて電流値が上昇している場合、機械的な負荷増加(摩耗による抵抗増)や電気的な問題(絶縁低下)が考えられます。
CBM導入の実施ステップ
CBMを効果的に運用するには、段階的な導入プロセスが重要です。以下の手順で進めることで、失敗リスクを抑えながら成果を出すことができます。
- 重要設備の選定
全設備に一度にCBMを導入するのではなく、工期や安全性への影響が大きい設備から優先的に始めます。クレーンや主要な揚重機、基礎工事用の重機などが候補になります。 - 診断技術の選択
設備の種類や故障モードに応じて、適切な診断手法を選びます。回転機械には振動診断、油圧機械には油分析、電気設備には電流監視といった具合です。 - ベースラインデータの取得
正常状態での各種パラメータ(振動値、油の性状、温度など)を測定し、基準値を設定します。このベースラインがなければ異常を判定できません。 - しきい値の設定
「注意レベル」と「危険レベル」の2段階でしきい値を設定します。注意レベルで監視頻度を上げ、危険レベルで即座に保全作業を実施するといった運用が一般的です。 - 定期測定と傾向管理
設定した周期で測定を行い、データをグラフ化してトレンドを監視します。突発的な異常だけでなく、緩やかな劣化傾向も見逃さないことが重要です。 - 保全計画への反映
CBMで得られた情報をもとに、TBMの点検周期を見直したり、部品交換のタイミングを最適化したりします。両者を組み合わせることで、より高度な保全体制が構築できます。
5. 建設業でのCBM導入における実務上の注意点
CBMは理論的には優れた保全手法ですが、建設業特有の環境や制約を考慮しないと、期待した効果が得られないことがあります。ここでは実務で直面しやすい課題と対策を解説します。
コストと効果のバランス
CBMを導入するには、センサーやデータ収集装置の購入、診断技術の習得、データ分析システムの構築といった初期投資が必要です。中小規模の建設会社では、この初期コストが導入の障壁になることがあります。
対策としては、まずレンタル機材へのCBM適用から始める方法があります。リース会社が提供するIoT対応の建設機械を活用すれば、自社で設備投資せずにCBMの効果を実感できます。また、複数の現場で共用する大型機械から優先的に導入し、成功事例を積み上げることで、段階的に適用範囲を広げていくアプローチも有効です。
屋外環境での測定精度
建設現場は工場と異なり、雨・風・砂塵・温度変化といった過酷な環境下で設備が稼働します。センサーの防水・防塵性能が不十分だと、誤検知や故障の原因になります。振動センサーも、地盤の振動や周辺機械の影響を受けて、本来測定したい設備の振動が正確に取れないことがあります。
実務では、IP65以上の防水防塵等級を持つセンサーを選定し、定期的な校正とメンテナンスを行うことが重要です。また、測定データには環境ノイズが含まれるため、単発の異常値だけで判断せず、複数回の測定や他の診断手法と組み合わせて総合的に評価する姿勢が求められます。
技術者の育成と組織体制
CBMで得られるデータは、適切に解釈されて初めて価値を持ちます。振動スペクトルの読み方、油分析結果の見方、異常判定の基準といった専門知識が必要です。しかし、多くの建設会社では保全専門の技術者が不足しており、データを活用しきれていないケースが見られます。
対策として、外部の診断サービス会社と連携する方法があります。測定データをクラウド経由で共有し、専門家の診断レポートを受け取る仕組みを導入すれば、社内に高度な専門知識がなくてもCBMを運用できます。また、メーカーが提供する保全技術の研修プログラムを活用し、中長期的に社内人材を育成することも重要です。
よくある疑問
Q1. CBMとTBMはどちらか一方だけを選ぶべきですか?
いいえ、両者は対立するものではなく併用が基本です。法定点検や安全性に関わる項目はTBMで確実に実施し、その間の状態をCBMで監視する「ハイブリッド保全」が実務では主流です。例えば、クレーンの年次法定点検はTBMで行い、日常の稼働状態は振動センサーでCBM監視するといった形です。
Q2. 小規模現場でもCBMは有効ですか?
規模よりも設備の重要度で判断すべきです。小規模でも、その設備が停止すると工期全体に影響する場合や、レンタル期間の延長で大きな損失が出る場合は、CBMの導入価値があります。最近では、スマートフォンアプリと簡易センサーを組み合わせた低コストのCBMソリューションも登場しており、小規模現場でも導入しやすくなっています。
Q3. CBMで故障はゼロにできますか?
残念ながら完全にゼロにはできません。CBMは故障の前兆を捉える技術ですが、突発的な破損(異物噛み込み、衝撃による破損など)までは予測できません。また、測定していないパラメータに関する故障も検出できません。CBMの目的は「故障ゼロ」ではなく「突発故障の最小化」と「保全コストの最適化」であることを理解しておく必要があります。
6. まとめ
CBM(状態基準保全)は、設備の実際の状態を監視しながら最適なタイミングで保全を行う手法であり、建設業における設備管理の高度化に不可欠な技術です。従来のTBMと組み合わせることで、突発故障リスクを抑えつつ、過剰な保全コストを削減できます。
- ✅ CBMは設備の状態をデータで把握し、必要な時だけ保全を行う効率的な手法
- ✅ 振動診断・油分析・温度監視など、設備に応じた診断技術の選択が重要
- ✅ TBMとの併用(ハイブリッド保全)が実務では最も効果的
- ✅ 初期投資とデータ解釈のための技術者育成が導入の鍵
- ✅ 小規模現場でも重要設備には適用価値あり。外部サービスの活用も選択肢
CBMの導入は一朝一夕には進みませんが、重要設備から段階的に始め、成功事例を積み重ねることで、組織全体の保全レベルを引き上げることができます。データに基づく科学的な設備管理により、安全性と生産性の両立を目指しましょう。


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