はじめに
火災時には、隣地や道路、隣接建物に向かって火炎・輻射熱が広がりますが、建築基準法では、この延焼の危険性が高い範囲を明確に定義し、該当する部分に対して外壁の防火構造や開口部の防火設備を義務づけています。
特に、建物の配置計画・開口部計画・外壁仕様の検討において、この延焼範囲の判定は避けて通れない重要なステップです。
誤った判定を行うと、建築確認での指摘や、工事後の性能不足につながる恐れもあります。
この記事では、建築基準法第2条第6号に定められた「延焼のおそれのある部分」について、
条文の要点、専門用語の解説、該当・非該当の具体例、例外規定、防火設計や確認申請との関係
を体系的にわかりやすく整理します。
条文
まずは条文全文を確認してみましょう!
延焼のおそれのある部分 隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の二以上の建築物(延べ面積の合計が五百平方メートル以内の建築物は、一の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線(ロにおいて「隣地境界線等」という。)から、一階にあつては三メートル以下、二階以上にあつては五メートル以下の距離にある建築物の部分をいう。ただし、次のイ又はロのいずれかに該当する部分を除く。
イ 防火上有効な公園、広場、川その他の空地又は水面、耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分
ロ 建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて、当該建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのないものとして国土交通大臣が定める部分
条文をやさしく言い換えると?
「延焼のおそれのある部分(通称:延焼ライン)」とは、
隣地や道路、敷地内の別棟に近く、火災時に炎や熱が移りやすい建物の範囲
を指します。

具体的な距離の基準は以下のとおりです。
- 1階部分: 隣地境界線等から 3m 以内
- 2階以上の部分: 隣地境界線等から 5m 以内
ここで基準となる「隣地境界線等」には以下が含まれます。
- 隣地境界線
- 道路中心線
- 同一敷地内の二以上の建築物(延べ面積合計500㎡超)相互の外壁間の中心線
この範囲に入ってしまった部分(壁・軒裏・窓など)は、法律により「燃えにくい構造・設備」にすることが義務付けられるため、コストやデザインを左右する設計の最重要ポイントとなります。
条文に含まれる専門用語と実務的な解説
● 延焼のおそれのある部分
火災時に外部からの火熱を受け、燃える可能性がある範囲のこと。
壁面だけでなく、飛び出している「軒先」や「バルコニーの先端」も対象となります。
例:壁は境界線から4m離れていてセーフだが、バルコニーが1m突き出しているため、バルコニー部分は「延焼ライン(3m以内)」に入ってしまうケース。

● 隣地境界線等
距離を測るスタート地点です。
- 道路中心線: 道路の「端」ではなく「中心」から測ります。幅の広い道路に面していると、建物までの距離が稼げるため有利になります。
- 相互の外壁間の中心線: 同じ敷地に「母屋」と「離れ」がある場合などです。ただし、合計面積が500㎡以内の小規模な増築等の場合は、一つの建物とみなされ、このラインは無視できる特例があります。
● 一階は3m、二階以上は5m
火災の炎は上に燃え広がる性質があるため、上階ほど危険範囲(離隔距離)が広く設定されています。
● 防火上有効な空地
火が燃え移る心配がない「広場・川・海・公園」などに面している場合は、距離が近くても延焼ラインから除外されます(緩和規定)。
延焼のおそれのある部分に該当する具体例と判定
| 建物状況 | 判定 | 理由・実務上の注意 |
| 1階外壁が隣地境界から1.2m | 該当 | 3m以内のため。網入りガラス等が必要。 |
| 2階バルコニーが隣地境界から4m | 該当 | 2階は5m以内が対象。軒裏等の防火措置が必要。 |
| 建物が道路中心線から6m離れている | 除外 | 1階(3m)、2階(5m)ともに範囲外。透明ガラス使用可。 |
| 建物が川沿いで川幅20m | 除外 | 「防火上有効な空地」に面するため緩和適用。 |
| 換気扇のフードが境界から2m | 該当 | 【盲点】 開口部とみなされ、「防火ダンパー」が必要。 |
意外な落とし穴!適用される「地域」に注意
この定義自体は全国共通ですが、実際に「窓を網入りにしろ」「壁を耐火構造にしろ」という制限(第61条など)がかかるのは、主に以下の地域です。
- 防火地域
- 準防火地域
- 法22条区域(屋根不燃区域)
都市計画区域外の山間部などで、これらの指定がない無指定地域であれば、延焼ラインに入っていても防火設備の義務が発生しない場合があります。必ず役所の「都市計画図」を確認しましょう。
例外規定(条文イ・ロ)の詳細解説
この法令には、以下に示す条件において例外が発生します。このような場合を例外規定と言います。
イ:防火上有効な空地・水面等に面する部分
以下に面する部分は延焼のおそれがないとみなされます。
- 公園、広場
- 川、池、海、運河
- 耐火構造の壁(隣の建物が窓のないコンクリート壁である場合など)
ロ:国土交通大臣が定める部分(角度緩和など)
建物の配置角度によって、延焼の危険性が低いと認められる場合です。
例: 敷地境界線に対して建物が斜めに建っており、外壁と境界線の角度が十分に開いている場合など。詳細な計算が必要ですが、これにより範囲を狭めることができます。
■ 建築確認申請と実務への影響
建築確認申請において、延焼ラインに関する項目は最も厳格にチェックされる項目の一つです。そのため慎重に確認を行う必要があります。
1. 図面への明示義務
配置図・平面図・立面図に、「延焼のおそれのある部分の境界線(延焼ライン)」を一点鎖線などで明確に図示する必要があります。

2. コストとデザインへの影響
延焼ライン内に入ると、以下の仕様が強制されます。
- 窓・ドア: 防火設備(網入りガラス、防火シャッター、防火認定を受けた高価な透明ガラス等)
- 外壁・軒裏: 防火構造・準耐火構造
- 換気設備: 防火ダンパー付のフード・換気扇
■ まとめ
建築基準法における「延焼のおそれのある部分」は、外壁・開口部の防火仕様を決める重要な概念です。
1階は3m、2階以上は5m以内の外壁部分が原則対象となり、
公園・川・耐火壁など防火上安全な方向は除外
されます。
さらに、告示による角度緩和も存在し、設計の自由度を確保しています。
建築確認では必ず審査される項目であり、
距離の測定・外壁仕様・サッシ仕様の整合性は実務上極めて重要です。


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