はじめに
自動車のエアロパーツ、ボートの船体、そして住宅のユニットバスやベランダ防水など、私たちの身の回りには 「FRP(繊維強化プラスチック)」 製品が多く使われています。FRPは軽量で強度が高い優れた素材ですが、長期間の使用や衝撃によって、ひび割れ(クラック)や欠けが発生することがあります。
今回は、このFRP製品のメンテナンスに焦点を当て、自分で直すための 「FRP補修のやり方」 と、DIYで行う場合の メリット・デメリット、注意点 を詳しく解説します。
愛車や住宅設備の寿命を延ばすための参考として、補修の仕組みへの理解を深めていきましょう。

本文
1. FRP補修の基本と2つのアプローチ
FRPの補修方法は、損傷の程度によって大きく分けて 「パテ埋め補修(表面処理)」と「積層補修(ガラスマット使用)」 の2つです。この二つの方法は、強度を回復させる仕組みに大きな違いがあります。
🔹パテ埋め補修(軽微なキズ)の概要
パテ埋め補修は、 浅いひび割れや表面の欠け に対して行われる簡易的な工法であり、主に見た目の修復を目的としています。
- 基本構造: ポリエステルパテやエポキシパテなどの充填剤を傷口に埋め込み、硬化後に研磨して平滑にします。
- 特徴: 傷を「点」や「線」で埋めるイメージの工法です。構造的な強度が不要な箇所の補修に適しています。
- 用途: 車のバンパーの擦り傷や、浴槽の表面的なヘアクラック(髪の毛ほどの細いひび)などで採用されており、 手軽さ が特徴です。
🔹積層補修(深い割れ・穴)の概要
積層補修は、ガラス繊維(ガラスマット)と樹脂を用いてFRP層そのものを再構築する工法であり、本格的な補修と言えます。
- 基本構造: 破損箇所を大きく削り込み、ガラス繊維のマットに液状の樹脂を浸透させて貼り重ね(積層)、新しいFRPの層を作ります。
- 特徴: パテ埋めが「点」で直すのに対し、積層補修は 「面」で強度を再生させるイメージです。ガラス繊維が骨組みとなり、樹脂がそれを固めることで、元の製品と同等以上の強度 を確保します。
- システム化: ホームセンターなどで「FRP補修キット」として材料がセット販売されているため、道具さえ揃えればプロに近い補修を 自分で行う ことができます。
2. 本格的なFRP補修の具体的な手順(やり方)
FRPの強度を完全に取り戻すための「積層補修」には、以下の手順が必要です。
🟦 補修のステップ
| 工程 | 詳細 |
|---|---|
| 1. 下地処理(足付け・脱脂) | 補修箇所の周辺をサンドペーパー(#80〜#120)で削り、塗料や汚れを落とします。表面をザラザラにすることで樹脂の食いつきを良くし、アセトンで油分を完全に拭き取ります。これが 最も重要な工程 です。 |
| 2. ガラスマットの積層 | ポリエステル樹脂に硬化剤を規定量混ぜ、ガラスマットに染み込ませながら患部に貼り付けます。これを数層重ねて厚みを出します。 |
| 3. 脱泡(だっぽう)作業 | 専用のローラーや刷毛を使い、積層したマットの中から空気を押し出します。空気が残っていると強度が低下するため、 徹底的に空気を抜く ことが強度確保の鍵となります。 |
| 4. 硬化・研磨 | 樹脂が完全に硬化したら、余分な部分をサンダーやサンドペーパーで削り、表面を平滑に整えます。 |
| 5. 仕上げ(トップコート) | 紫外線や水からFRP層を守るため、最後にトップコート(塗装)を施して完成させます。 |
3. DIY補修のメリット・デメリット
自分でFRP補修を行うことには、コスト面などのメリットがある一方、技術的な難しさというデメリットもあります。
🟦 DIY補修のメリット
| 特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 費用を安く抑えられる | プロに依頼する場合、技術料や人件費がかかりますが、DIYなら材料費(数千円程度)のみで済むため、 低コストで修理 できます。 |
| 早期の処置が可能 | 業者を探したり見積もりを取る時間を省き、ひび割れを見つけたその日に すぐに応急処置 ができます。水漏れなどの被害拡大を防ぐのに有効です。 |
| 愛着が湧く | 自分で手を加えて直すことで、愛車や住まいへの愛着が増し、構造やメンテナンスへの理解も深まります。 |
🚨 DIY補修のデメリット
| 難点 | 詳細 |
|---|---|
| 仕上がりに差が出やすい | 樹脂の配合や研磨作業はコツが必要で、職人の技術や経験に左右されやすく、 表面の凹凸や色ムラができやすい傾向があります。 |
| 有毒ガスと臭気 | ポリエステル樹脂やアセトンは揮発性が高く、 強烈なシンナー臭が発生します。近隣への配慮や、換気対策が必須となります。 |
| ガラス繊維のチクチク | ガラスマットをカットする際、微細なガラス繊維が飛散し、皮膚に刺さると 激しいかゆみや痛みを引き起こします。長袖・手袋・マスクの着用が必要です。 |
| 強度不足のリスク | 脱泡が不十分だったり、硬化剤の比率を間違えると、 硬化不良や強度不足を起こし、すぐにまた割れてしまう可能性があります。 |
4. 失敗しないための重要ポイントと安全性
以前は「FRP補修はプロにしかできない」と言われることもありましたが、材料の入手性が良くなりDIYのハードルは下がっています。しかし、成功させるにはいくつかのコツがあります。
✅ 硬化剤の比率は厳守する
たしかに、気温によって硬化速度は変わりますが、適当に混ぜると失敗します。硬化剤は通常、樹脂に対して 1%〜2%程度 という非常に少ない量を添加します。多すぎると急激に発熱してひび割れの原因になり、少なすぎるといつまでもベタベタして固まりません。 結果的に一番大事なのは、 デジタルスケール(はかり)を使って正確に計量すること なのです。
✅ 安全対策の徹底
「ただの接着剤のようなもの」と思っている方も多いですが、FRP補修で使う溶剤は引火性が高く、吸入すると健康被害のリスクがあります。作業中は 火気厳禁 を徹底し、有機溶剤用のマスクを着用してください。 また、FRPの粉塵は肺に入ると有害です。研磨作業時は防塵マスクとゴーグルを必ず着用し、 自分の身を守りながら作業する ことが最も重要です。
✅ プロとの使い分け:「ハイブリッドな判断」
小さな穴やエアロパーツの補修ならDIYで十分可能です。 しかし、 「お風呂の浴槽の底が割れた(水漏れ)」「ベランダの防水層が広範囲で浮いている」 といったケースは、DIYでの完治が難しく、失敗すると水漏れ事故(階下への漏水など)に繋がるリスクがあります。このような重要箇所については、無理せず 専門業者に依頼して確実に直してもらう という判断も、賢いメンテナンスの一部です。
まとめ
今回は、FRP製品のメンテナンスとして主流となっている 「パテ埋め」と「積層補修」 のやり方についてご紹介しました。
パテ埋め は手軽で見栄えを良くするのに優れ、 積層補修 は強度回復と耐久性に強みがあります。損傷のレベルに合わせて適切な工法を選ぶことが大切です。
DIYでの補修を検討する際には、その作業が 自分の技術で対応可能な範囲か 、そして 安全に作業できる環境があるか をきちんと確認し、無理のない範囲で挑戦することが大切です。
例えば、下地作りまでは自分で行い、最後の仕上げ塗装だけプロに相談するなど、柔軟な対応も可能です。補修については、手順だけでなく、適切な換気や保護具の準備が最も重要であることを覚えておきましょう。


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