曲げ応力とは、梁などの部材に曲げモーメントが作用したとき、断面内部に生じる引張側・圧縮側の垂直応力です。
梁に上から荷重がかかって下向きにたわむ場合、一般的には梁の上側に圧縮、下側に引張の曲げ応力が生じます。
曲げ応力を理解するときに重要なのが、「曲げモーメント」「中立軸」「断面二次モーメント」「断面係数」の4つです。
特に「曲げ応力」と「曲げモーメント」は名前が似ていますが、意味も単位も異なります。
この記事では、曲げ応力の意味から曲げモーメントとの違い、基本公式、断面係数を使った計算方法、梁せいとの関係まで建築・構造実務につながる形で解説します。
曲げ応力とは
曲げ応力とは、梁などの部材が曲げモーメントを受けたときに、その断面内部に生じる垂直応力です。
例えば、両端で支持された梁の中央付近に下向きの荷重を加えると、梁は下向きにたわみます。
このとき断面を見ると、一般的には上側が縮もうとし、下側が伸びようとします。
- 上側:圧縮側の曲げ応力
- 下側:引張側の曲げ応力
- その間:応力が0となる中立軸
このように、一つの梁断面の中でも曲げ応力の大きさと向きは一定ではありません。
中立軸では曲げ応力が0となり、中立軸から離れるほど曲げ応力の絶対値が大きくなり、断面の最外縁で最大になります。
なお、材料力学ではこの垂直応力を「曲げ応力」と呼ぶことが一般的ですが、建築構造実務では「曲げモーメント」と「曲げ応力度」を分けて考えると理解しやすくなります。
参考:日本機械学会「はりの曲げ応力」
曲げ応力と曲げモーメントの違い
曲げ応力を理解するときに最も混同しやすいのが曲げモーメントです。
| 項目 | 曲げモーメント | 曲げ応力 |
|---|---|---|
| 記号 | M | σ |
| 意味 | 部材を曲げようとする断面力 | 曲げによって断面内に生じる垂直応力 |
| 代表的な単位 | N・mm、kN・m | N/mm²、MPa |
| 主に決まる要素 | 荷重・支点・スパンなど | 曲げモーメント+断面形状 |
例えば、同じ曲げモーメントを受ける梁でも、断面が大きい梁と小さい梁では発生する曲げ応力が異なります。
つまり、
荷重やスパンから曲げモーメントを求め、その曲げモーメントと梁断面から曲げ応力を求める
という順番で考えるのが基本です。
応力・曲げモーメント・せん断力などの基本的な違いについては、以下の記事でも解説しています。
曲げ応力が生じる仕組みと中立軸
梁が曲がると、断面の一方は伸び、反対側は縮みます。
しかし、その間にはほとんど伸び縮みしない位置があります。この位置を中立軸といいます。
均質な材料で、弾性範囲内の単純な梁を考える場合、曲げ応力は中立軸からの距離に比例して増加します。
したがって、断面内の曲げ応力分布は次のように考えられます。
- 中立軸上では曲げ応力は0
- 中立軸から離れるほど応力が大きくなる
- 断面の一方では圧縮応力が生じる
- 反対側では引張応力が生じる
- 断面の最外縁で曲げ応力が最大になる
ここで注意したいのは、「中立軸付近では応力が小さい」ことと、「中立軸より内側では応力が発生しない」ことは違うという点です。
曲げ応力が0になるのは基本的に中立軸そのものであり、中立軸から少しでも離れれば曲げ応力が生じます。
曲げ応力の基本公式
弾性範囲内の梁について、断面内の任意の位置に生じる曲げ応力は、基本的に次の式で表されます。
σ = M × y / I
| 記号 | 意味 | 代表単位 |
|---|---|---|
| σ | 曲げ応力 | N/mm² |
| M | 曲げモーメント | N・mm |
| y | 中立軸から求めたい位置までの距離 | mm |
| I | 中立軸まわりの断面二次モーメント | mm⁴ |
この式から、曲げ応力には次の特徴があることが分かります。
- 曲げモーメントMが大きいほど曲げ応力は大きくなる
- 中立軸から遠いほど曲げ応力は大きくなる
- 断面二次モーメントIが大きいほど、同じM・yに対する曲げ応力は小さくなる
なお、この基本式は、均質な材料で弾性範囲内にあり、平面保持の仮定などが成立する通常の梁理論を前提としています。
鉄筋コンクリートのひび割れ後の挙動、材料の塑性化、局部座屈などまで含めた実際の構造設計では、単純なこの式だけで安全性を判断するわけではありません。
最大曲げ応力は断面係数Zを使って求められる
梁の強度を考えるときは、断面の最外縁に生じる最大曲げ応力を確認することが多くなります。
最大曲げ応力は、断面係数Zを用いて次のように表すことができます。
σmax = M / Z
断面係数Zは次の関係で求めます。
Z = I / c
ここでcは、中立軸から断面の最外縁までの距離です。
つまり断面係数Zは、断面形状が曲げ応力に対してどの程度有利かを表す幾何学的な指標と考えると理解しやすくなります。
Zが大きい断面ほど、同じ曲げモーメントを受けても最大曲げ応力を小さくできます。
長方形断面の断面二次モーメントと断面係数
幅b、せいhの長方形断面の場合、断面二次モーメントIは次の式になります。
I = b × h³ / 12
また、中立軸から最外縁までの距離はh/2なので、断面係数Zは次の式になります。
Z = b × h² / 6
| 項目 | 長方形断面 |
|---|---|
| 断面二次モーメント I | b × h³ / 12 |
| 断面係数 Z | b × h² / 6 |
ここで非常に重要なのが梁せいhの影響です。
断面係数Zでは梁せいが2乗、断面二次モーメントIでは3乗で効いてきます。
そのため、同じ断面積を増やす場合でも、梁幅だけを大きくするより梁せいを大きくした方が、一般的には曲げに対して効率のよい断面になります。
これが構造設計において「梁せい」が重要になる理由の一つです。
曲げ応力の計算例
簡単な長方形断面を例に、最大曲げ応力を計算してみます。
条件は次のとおりです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 梁幅 b | 100mm |
| 梁せい h | 200mm |
| 最大曲げモーメント M | 10kN・m |
ステップ1:単位をそろえる
曲げモーメントをN・mmへ変換します。
10kN・m = 10,000,000N・mm
ステップ2:断面係数Zを求める
長方形断面なので、
Z = b × h² / 6
= 100 × 200² / 6
≒ 666,667mm³
ステップ3:最大曲げ応力を求める
σmax = M / Z
= 10,000,000 / 666,667
≒ 15N/mm²
したがって、この条件では断面最外縁の最大曲げ応力は約15N/mm²となります。
実際の構造設計では、この値だけで安全・危険を判断するのではなく、材料や構造形式に応じた許容応力度・材料強度・座屈・たわみなどの条件も確認します。
梁せいを大きくすると曲げ応力が小さくなりやすい理由
長方形断面の最大曲げ応力は、
σmax = M / Z
で表され、断面係数は、
Z = b × h² / 6
です。
つまり、曲げモーメントMが同じなら、断面係数Zを大きくするほど最大曲げ応力を小さくできます。
さらに長方形断面では、梁幅bは1乗で効くのに対して、梁せいhは2乗で断面係数に影響します。
例えば単純化して考えると、梁幅を同じまま梁せいを大きくすれば、曲げ応力に対して大きな効果を得られます。
このため梁の断面を検討するときは、幅だけでなく梁せい・スパン・荷重・材料を一体として考える必要があります。
曲げ応力とたわみは同じではない
曲げ応力が小さければ、必ずしも梁の変形も問題ないとは限りません。
曲げ応力は主に部材内部に生じる応力の大きさを確認する指標ですが、たわみは梁そのものの変形量です。
梁のたわみには、荷重やスパンに加えて、材料のヤング率Eと断面二次モーメントIが大きく関係します。
したがって梁の設計では、
- 曲げに対して十分な強度があるか
- せん断に対して問題がないか
- たわみが許容範囲内か
- 座屈など別の破壊形式が問題にならないか
などを総合的に確認します。
曲げ応力だけを確認して梁断面を決めるわけではありません。
構造別に曲げを考えるときの注意点
木造
木造梁では、荷重によって生じる曲げモーメントと梁断面から曲げに対する検討を行います。
ただし木材は樹種、等級、含水状態などによって材料特性が異なるため、単に断面係数だけで梁寸法を決めることはできません。
鉄骨造
鉄骨梁でも断面係数と曲げモーメントは重要ですが、実際の設計では部材の降伏だけでなく、横座屈や局部座屈なども考慮します。
そのため「σ=M/Zを満たせば必ず安全」とは限りません。
鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリートでは、コンクリートと鉄筋という性質の異なる材料が組み合わされています。
さらに曲げによって引張側コンクリートにひび割れが生じた後は、断面内の応力状態も変化します。
そのため、RC梁の設計を単純な均質長方形断面のσ=M/Zだけで説明するのは適切ではありません。
基本的な曲げ応力の考え方を理解したうえで、各構造形式に対応した設計方法を使用する必要があります。
曲げ応力とせん断応力の違い
梁には曲げだけでなく、せん断力も作用します。
| 項目 | 曲げ応力 | せん断応力 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 曲げモーメント | せん断力 |
| 応力の方向 | 断面に対する垂直方向 | 断面に沿う方向 |
| 代表的な分布 | 中立軸で0、最外縁で最大 | 断面形状によって異なり、長方形断面では中立軸付近で最大 |
同じ梁の中に曲げ応力とせん断応力は同時に発生するため、構造設計では両方を確認します。
曲げ応力でよくある疑問
曲げ応力の単位は何ですか?
曲げ応力は単位面積当たりの力なので、N/mm²やPa、MPaなどで表します。
建築・構造分野ではN/mm²を使用することが多く、1N/mm²は1MPaです。
曲げモーメントと曲げ応力は同じですか?
同じではありません。
曲げモーメントMは部材断面に作用するモーメントであり、曲げ応力σはその曲げモーメントによって断面内部に生じる垂直応力です。
曲げ応力が最大になるのはどこですか?
単純な弾性梁では、中立軸から最も遠い断面の最外縁で最大になります。
中立軸では曲げ応力は0です。
断面二次モーメントと断面係数は同じですか?
異なります。
断面二次モーメントIは曲げ変形や応力分布に関係する断面の幾何学的性質で、単位はmm⁴です。
断面係数ZはIを中立軸から最外縁までの距離で割った値で、最大曲げ応力を求めるときに使用します。単位はmm³です。
まとめ
曲げ応力とは、梁などの部材が曲げモーメントを受けたときに断面内部に生じる垂直応力です。
単純な弾性梁では、中立軸で曲げ応力が0となり、中立軸から離れるほど大きくなって最外縁で最大になります。
断面内の任意の位置の曲げ応力は、
σ = M × y / I
最大曲げ応力は、
σmax = M / Z
で求められます。
また、長方形断面では梁せいが断面係数に2乗で影響するため、梁せいは曲げに対する性能を考えるうえで非常に重要な寸法です。
ただし実際の建築構造設計では、曲げ応力だけでなく、せん断、たわみ、座屈、材料特性なども含めて安全性を確認します。
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