
はじめに
近年、日本が2050年のカーボンニュートラル実現に向けて進める取り組みの中で、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)、そしてネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)といった省エネ技術や脱炭素技術が注目されています。これらの性能や能力を理解する上で欠かせない概念が、「一次エネルギー」です。
一次エネルギーとは、加工されない状態で供給されるエネルギーのことであり、石油や天然ガス、水力、原子力など、自然から直接採取できるエネルギーを指します。
本記事では、この一次エネルギーの定義を深掘りし、一次エネルギー供給を取り巻く日本の現状、そして特に建築分野で重要性が増している「一次エネルギー消費量等級」との関係について詳しく解説します。
本文
1. 一次エネルギー、二次エネルギー、最終エネルギー消費の明確な違い
エネルギーは、供給されてから消費者に使用されるまでに、様々な段階を経ています。その流れを理解するために、三つの重要な概念を確認します。
✔ 一次エネルギーとは
一次エネルギーとは、自然から直接採取され、加工されない状態で供給されるエネルギーです。
具体的には、石油、石炭、天然ガス、原子力といった化石燃料や、水力、地熱、太陽熱、風力、潮力、さらには薪や牛糞といったものも含まれます。
✔ 二次エネルギーとは
一次エネルギーを転換・加工することで得られるエネルギーが二次エネルギーです。
例としては、火力発電などで石炭や天然ガスを原料にして得られる電力や、都市ガス、ガソリン、灯油、軽油、重油といった石油製品、LPガス、熱などが該当します。最近、脱炭素社会の実現のために注目されている水素も二次エネルギーに分類されます。
✔ 最終エネルギー消費とは
最終エネルギー消費とは、産業活動や交通機関、家庭など、需要家レベルで最終的に消費されるエネルギーの総量を指します。この総量には、電力会社の発電所や石油精製工場、ガス製造所といったエネルギー転換部門でのエネルギー消費は含まれません。
2. 一次エネルギー供給量と最終消費量の乖離
資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」によると、国内に供給される一次エネルギー供給量の総量と、最終エネルギー消費量は一致しません。
この差は、エネルギーが消費者に届くまでに発生する発電ロス、輸送中のロス、および発電・転換部門での自家消費によるものです。
| 概念 | 定義に含まれるもの | 割合(2011年度/2021年度) |
|---|---|---|
| 一次エネルギー供給 | ロスや自家消費を含めた、国が必要とする全てのエネルギー量。 | 100 |
| 最終エネルギー消費 | 消費者が最終的に使用するエネルギー量。 | 69程度 (2011年度) / 66程度 (2021年度) |
2021年度のデータでは、一次エネルギー総供給を100とすると、最終エネルギー消費は66程度であり、約34%が損失していることになります。
3. 日本のエネルギー事情と自給率の課題
日本の一次エネルギー供給は、化石燃料が大半を占めています。
日本の一次エネルギー供給構成(2021年度)
| 分類 | 構成比 | 内訳(主要項目) |
|---|---|---|
| 化石燃料 | 83.2% | 石油 36.3%、石炭 25.4%、LNG 21.5% |
| 非化石燃料 | 16.8% | 再エネ等 10.0%(水力除く)、水力 3.6%、原子力 3.2% |
日本は、この化石燃料のほとんどを輸入に頼っており、特に石油の供給元は中東が91.9%(2021年度)と特定の国・地域に高く依存しています。
- エネルギー自給率の現状: エネルギー自給率(他国からの輸入に頼らず自国内で確保できる比率)は、2021年度で13.3%と、OECD諸国と比較して低い水準にあります。
- 低い自給率のデメリット: 自給率が低いと、資源国や国際情勢の動向による影響を受けやすく、急激な価格高騰や、最悪の場合にはエネルギーの安定供給が脅かされる恐れがあります。
こうした課題を解決するため、日本ではエネルギー自給率の向上が喫緊の課題となっており、太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーの拡大が欠かせません。島国である特性を活かした洋上風力発電などが、大きな可能性を秘めています。
4. 建築における一次エネルギー消費量等級の重要性
日本の建築分野では、省エネ性能の評価指標として「一次エネルギー消費量等級」が用いられています。これは、建築物が1年間で消費するエネルギー量を数値化した指標です。
等級の計算と評価
一次エネルギー消費量は、「BEI(Building Energy Index)」という単位で算出されます。
BEI = 設計一次エネルギー消費量 / 基準一次エネルギー消費量
BEIの値によって等級が定められており、等級が小さいほど、エネルギー消費量が少なく、省エネ性能が高い建築物であることを示します。等級は3~6に分けられています。
| 等級 | BEI | 特徴と基準 |
|---|---|---|
| 等級6 | 0.8以下 | 2025年2月時点の最高等級。基準に対し20%以上削減。 |
| 等級5 | 0.9以下 | 認定低炭素住宅に求められる。基準に対し10%以上削減。 |
| 等級4 | 1.0以下 | 国が定める省エネ住宅の基準。2025年度以降、義務化される基準。 |
| 等級3 | 1.1以下 | 既存住宅のみが対象で、国が定める省エネ基準を下回る。 |
関連する省エネ基準
一次エネルギー消費量等級の他に、省エネ基準として「断熱等性能等級」と「BELS」があります。
- 断熱等性能等級 これは、住宅の断熱性を評価する基準です。UA値(外皮平均熱貫流率=熱の逃げにくさ)によって決まり、等級1から7に分かれ、数値が大きいほど断熱性能が高いことを示します。一次エネルギー消費量等級の向上には、この断熱等性能等級(最低でも等級5以上)の向上が不可欠です。断熱等性能等級も、2025年以降に新築される建築物には等級4以上が義務化されます。
- BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System) 建築物の省エネ性能を評価・表示する日本独自の制度で、2014年に運用が始まりました。第三者評価機関によってエネルギー消費性能や断熱性能が評価され、結果は★の数で示されます。
5. 等級の高い建築物を建てるメリットと対策
一次エネルギー消費量等級の高い建築物は建築コストが増える傾向にありますが、それを上回るメリットがあります。
💰 ランニングコストの削減
エネルギー効率の高い設備を導入し、太陽光発電システムなどでエネルギーを創ることで、日々の光熱費というランニングコストを大幅に抑えられます。国土交通省の試算では、省エネ住宅によって年間数万円単位の節約が可能とされています(例:東京都23区で年間46,000円~53,000円節約)。
🤝 補助金制度の活用
国は省エネ化を積極的に推進しており、省エネ性能の高い建築物を新築・改修する施策に対し、様々な支援を用意しています。
- 住宅向け支援の例(2024年度)
- ZEH補助金: ZEH住宅の新築・購入に55万円/戸、高性能なZEH+住宅に100万円/戸が支援されます。
- 子育てエコホーム支援事業: 長期優良住宅に最大100万円/戸、ZEH住宅に最大80万円が支援されます。
💡 最高等級(等級6)取得のためのポイント
最高等級である一次エネルギー消費量等級6を取得するためには、設計段階での工夫が不可欠です。
- 建築物の断熱性能を高める: 最優先事項は、断熱等性能等級が最低でも等級5以上になるよう設計することです。断熱性の高い工法や断熱材、樹脂トリプルガラスなどの高性能サッシの採用が有効です。
- 高効率なエネルギー設備を導入する: 照明のLED化、エコキュートやエコジョーズといった高性能な給湯器の選択など、エネルギーを効率良く使う考え方が大切です。
まとめ
一次エネルギーとは、加工前の自然エネルギー源であり、電力や都市ガスといった二次エネルギーに変換される過程で、発電ロスなどの損失が発生します。
現在の日本のエネルギー供給は化石燃料への依存度が高く、エネルギー自給率13.3%(2021年度)という低い水準を改善するため、再生可能エネルギーの拡大が急務です。
建築分野では、この一次エネルギーの消費量を指標化した「一次エネルギー消費量等級」が極めて重要になっています。2025年4月以降、新築建築物に対して等級4以上(BEI 1.0以下)の適合が義務化されるため、建築物の省エネ化は待ったなしの課題です。
等級の高い建築物は、補助金を受けられる可能性や、ランニングコストを大幅に節約できるメリットがあるため、断熱等性能を上げ、高効率設備を導入することで、省エネ性能の最大化を目指すことが求められます。

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