FEM(有限要素法)入門|初心者向け基礎知識と活用場面を解説

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目次

■ はじめに

有限要素法(ゆうげんようそほう)は、工学や物理学の分野において、複雑な物体や構造物の力学的な振る舞いを数値的に解析する技術の一つです。英語では Finite Element Method と呼ばれ、その頭文字をとって FEM と略されます。

この手法は、特に複雑な形状や条件下での解析に非常に有効であり、様々な産業で製品や構造物の設計をより安全かつ効率的にするために利用されています。

本記事では、この有限要素法(FEM)の基本的な考え方、解析の仕組み、そして具体的な応用場面について、初心者の方にもわかりやすく解説します。

■ 本文

1. 有限要素法(FEM)とは?その基礎概念

有限要素法は、数学的な問題を数値で近似的に解く数値解析手法の一種です。

FEMの基本的な考え方は、解析したい物体や構造物全体を、小さな部分(要素)に分割することにあります。この分割された小さな部分を「メッシュ」と呼びます。

💡 FEMの核心: 「解析できるように形状を細分化する」ことです。

物体は多数の要素に離散化(分割)され、それぞれのメッシュ(要素)において物理的な法則に基づいた計算が行われます。これにより、全体の挙動を予測することが可能になります。

メッシュ(要素)と節点の役割

メッシュとは、物体を分割した際の個々の部分を指し、例えば三角形や四角形、立方体などの形状を持ちます。この分割プロセスは「メッシュ化」あるいは「メッシュ生成」と呼ばれ、有限要素法における重要なステップです。

  • 要素の種類: ソリッド要素(塊状)、シェル要素(板状)、ビーム要素(線状)などがあり、解析対象の形状や条件に応じて適切に選択されます。
  • 節点(ノード): 要素の頂点のことを指します。

要素の変形によって物体全体の変形が表現されるため、メッシュの切り方(分割数や要素の形)が結果に大きく影響します。メッシュの分割を細かくするほど、計算精度は高まりますが、その分、計算に時間がかかります

支配方程式の近似解を求める計算プロセス

FEMは、与えられた支配方程式(構造問題では、力の釣合い式、変形の式、材料の構成式から成る)を、要素内で平均的に満たす近似解を見つけ出す手法です。

市販のソルバー内部では、計算は以下の流れで進行します。

  1. 要素ごとの剛性マトリックスを作成。剛性マトリックスとは、構造物の変形に対する抵抗を表す行列です。
  2. 重ね合わせにより全体の剛性マトリックスを作成。
  3. 境界条件を考慮。
  4. 連立方程式を解き、まず節点における変位(変形)を求める。
  5. 節点変位から、ひずみを計算し、最終的に材料の構成式を用いて要素内の応力を求める。

この解析結果を理解しやすくするために、結果を可視化・解析する「ポストプロセッシング」と呼ばれる処理が行われます。

2. 有限要素解析に必要な条件と解析の種類

FEM解析を行うにあたっては、解析対象の「物性」と「条件」の設定が不可欠です。

必須となる条件設定

解析結果の精度は、設定される条件に大きく影響を受けます。

  • 荷重条件: 構造物にかかる外部の力や圧力を定義します。集中荷重、圧力荷重、重力加速度、または直接的な運動の付与などがあります。
  • 境界条件: 物体の外部や内部の条件を設定します。空間に止めておく(拘束)や、部材間の結合などが含まれます。
  • 材料特性: 材料の強度や弾性などの物理的性質を示し、解析結果に大きく影響します。

線形解析と非線形解析

有限要素法による解析は、対象とする現象によって「線形」と「非線形」に大別されます。

解析の種類特徴適用場面複雑性
線形解析 (Lineaer Analysis)材料が小さな変形をする場合に適用される手法。簡単なモデル化が可能。比較的低い。
非線形解析 (Non-linear Analysis)材料が大きな変形をする場合や複雑な挙動を示す場合に用いられる。衝突解析など、材料の非線形性を考慮する場合。複雑な計算が必要。

静解析と動解析

時間に依存するかどうかも重要な分類です。

  • 静解析: 荷重が加わっている状態を分析し、静的な力に対する応力や変形を求めます。
  • 動解析: 時間に依存する荷重や変化を考慮した解析で、振動や衝撃に対する応答を調べます。

3. FEMの幅広い活用場面と応用例

有限要素法は、工学問題における応力解析、熱伝導、流体力学などの分野で用いられる、非常に汎用性の高い手法です。製品開発や設計段階での予測、現場での問題解決など、実践的な応用にも役立っています。

分野応用例解析の種類詳細な活用例
建築高層ビルの強度計算。構造解析。建物全体の安全性の事前確認。
自動車衝突安全性能の解析。動解析、非線形解析。落下、衝突解析では、初速を与えて衝突直前から計算し、弾塑性体モデルを用いる。
航空宇宙航空機の翼の設計。構造解析、流体力学。現実世界で試すのが難しい条件下でも性能を事前に確かめられる。
製造業部材の応力や熱伝導解析。構造解析、熱伝導解析。プレス加工解析では、金型を剛体としてモデル化し、強制変位を設定する。
機械工学振動解析、機構解析。動解析、静解析。機構解析では、ギアやアームの駆動計算を行い、現象時間を短くする工夫が求められる。

有限要素法を用いることで、物体が外部からの力によってどのように変形するか、またその際に生じる応力(物体にかかる力を表す指標) を事前に数値的に把握することができます。

FEMイメージ

■ まとめ

有限要素法(FEM)は、解析対象をメッシュと呼ばれる小さな要素に分割し、数値的に物体の挙動を解析するための有効な手法です。

有限要素法のポイント

  • FEMは、Finite Element Methodの略であり、数値解析法の一つです。
  • 複雑な問題に対応できるため、建築、自動車、航空宇宙など多くの産業で使われています。
  • 解析の精度は、メッシュの細かさ(メッシュの分割)や、荷重条件、境界条件、材料特性の設定に依存します。
  • 解析の種類には、変形の度合いによる線形・非線形解析や、時間の考慮による静解析・動解析があります。

今後の展望

有限要素法は既に確立された技術ですが、今後も様々な分野での発展が期待されています。特に、複数のソフトウェア間の連成解析(マルチフィジックスソルバーとしての発展)、クラウド環境での利用、そしてAIや機械学習の導入といった新しい技術開発やサービス提供が進められています。

この強力な解析手法を理解し活用することは、設計や製造プロセスの改善において非常に重要です。

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