🟦 はじめに
CASBEE(キャスビー)は、建築物の環境性能を客観的に評価し、その結果をランク付けする手法です。これは、単に省エネルギー性能を測るだけでなく、建物の環境に対する様々な側面を総合的に評価することを目的としています。
建築物の環境対策が不動産の付加価値向上に直結する現代において、CASBEEの評価は、建設事業者、設計事務所、建物所有者、そして不動産投資機関など、国内の多岐にわたる関係者に広く活用されています。
この記事では、CASBEEの基本概要、評価の仕組み、そして特に既存建築物の資産評価に重要なCASBEE不動産の活用法について、分かりやすく解説します。

🔷 本文:建築環境総合性能評価システムの全貌
1. CASBEEの基本概要と開発理念
CASBEEが目指す「総合的環境評価」とは
CASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency:建築環境総合性能評価システム)は、2001年4月に国土交通省住宅局の支援のもと、産官学共同プロジェクトとして開発されました。
このシステムは、以下の要素を総合的に考慮します:
- 環境配慮: 省エネルギー性能、環境負荷の少ない資材や機材の使用。
- 建物の品質: 室内の過ごしやすさ(快適性)、周囲の景観への配慮。
評価の核となる3つの理念
CASBEEは、建築物の環境性能を客観的に評価するため、以下の3つの理念に基づいて開発されています。
- ライフサイクル評価: 建築物のライフサイクルを通じた評価ができること。
- 両側面からの評価: 「Q(建築物の環境品質・性能)」と「L(建築物の環境負荷低減性)」の両側面から評価すること。
- BEEの活用: 「環境効率」の考え方を用いた指標、BEE(建築物の環境性能効率)で評価すること。
評価指標「BEE」と5段階ランク
CASBEEの評価の計算式には、このBEE(Built Environment Efficiency)が用いられます。
BEE = Q / L , (環境品質・性能)/(環境負荷低減性)
- Q(環境品質・性能): 数値が高いほど高評価(建物の快適性や性能が良い)。
- L(環境負荷低減性): 数字が低いほど高評価(環境負荷が低い)。
このBEEの値に基づき、建築物は全5段階のランク付けが行われます。
評価ランク | ランク表示 |
---|---|
S | 素晴らしい |
A | 大変良い |
B+ | 良い |
B- | やや劣る |
C | 劣る |
2. CASBEEファミリーと主要な評価項目
CASBEEは、評価対象とする建築物の種類やライフサイクルの段階に応じて、多様な評価ツール(CASBEEファミリー)を持っています。
主な評価項目として、CASBEE建築評価、CASBEE不動産評価、CASBEEウェルネスオフィス評価の3つが挙げられます。なお、工場の生産エリアは評価対象外です。
評価ツール | 主な対象 | 評価指標 | ランク数 |
---|---|---|---|
CASBEE建築評価 | 新築や改修する建築物 | BEE (Q/L) | 5段階 |
CASBEE不動産評価 | 竣工後1年以降の既存建築物 | 100点満点加点方式 | 4段階+星 |
CASBEEウェルネスオフィス評価 | オフィスビル(働く人の健康・生産性環境) | 100点満点加点方式 | 5段階 |
特に重要なCASBEE不動産の活用法
CASBEE不動産評価は、既存建築ストックの環境性能を評価し、不動産市場における付加価値向上に役立てるために開発されました。
【評価対象と目的】
- 対象: 竣工後1年以上の運用実績のある既存建築物が対象です。
- 活用: 評価結果を不動産評価へ活用することが期待されており、建物所有者や投資家が利用しやすいよう、評価基準が大幅に簡易化されています。
【評価項目の特徴】 国際的な評価制度(BREEAM・LEEDなど)との互換性を高めるため、評価項目は以下の5つに厳選されています。
- エネルギー/温暖化ガス
- 水
- 資源利用/安全
- 生物多様性/敷地
- 屋内環境
評価は100点満点の加点方式で実施され、点数に応じて4段階のランク付け(および星の数)が表示されます。
3. CASBEEを取得するメリットと注意点
CASBEEの主なメリット
CASBEEを取得することの大きなメリットは、主に客観性と比較の容易さにあります。
- 客観的な比較が可能: 環境性能を客観的な視点から評価するため、エリアに関係なく、取得している住宅や建物を横並びで比較できます。
- 専門知識が不要: CASBEEのランク表示があれば、消費者が専門的な知識を持たなくても、その建物の環境性能を一目で判断し、すぐに把握できる点が大きな利点です。
評価基準に関する注意点(デメリット)
CASBEEは環境性能を優先する評価であるため、以下の点に注意が必要です。
評価の高さ = 住みやすさ にはならないことを理解しておきましょう。
環境性能を向上させるために、庭に緑を増やしたり、池を作ったりといった工夫が評価を高める一方で、住む人にとって必ずしも住みやすさに繋がらない場合があるためです。
ただし、Cランクといった評価が低い場合であっても、それが欠陥住宅を意味するわけではありません。住宅選びで環境性能を重視する際には、目安として「B+ランク」以上の住宅を選ぶことが推奨されています。
4. 長期優良住宅制度との違い
CASBEEと同様に住宅性能を評価する制度に長期優良住宅認定制度がありますが、両制度は評価ポイントが大きく異なります。
- 長期優良住宅:住宅の居住面積や建物の維持・管理のしやすさなど、「長く快適に住み続けられる住宅」であることを重点的に評価します。
- CASBEE:居住環境よりも環境性能を重点的に評価します。
このため、長期優良住宅の認定を受けた建物であっても、CASBEEの評価が低い、あるいはその逆の現象が発生することは珍しくありません。建物の評価制度を利用する際には、制度が重視するポイントを理解しておくことが重要です。
🔷 まとめ
CASBEEは、建築物の環境性能Q(品質)とL(負荷)の両側面から評価する、日本独自の総合評価システムです。ライフサイクルを通じた客観的な評価を提供することで、住宅や建物の環境性能を消費者が容易に把握できるようにし、環境配慮建築物の普及を促進しています。
特にCASBEE不動産評価は、既存建築物の環境性能を簡易に評価し、不動産市場での付加価値向上という現代的なニーズに応える重要なツールとして活用が進んでいます。
評価マニュアルの定期的な更新や評価員講習会(2025年9月時点の情報を含む)が継続的に実施されており、CASBEEは今後も持続可能な建築社会の実現に向けて、重要な役割を果たし続けるでしょう。

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