はじめに
建物においては、構造体(柱・梁・壁など)だけでなく、快適性や安全性、機能性を支える「設備」が不可欠です。
この「建築設備」は、建築基準法において独立した定義が与えられており、建築確認の対象ともなります。
今回は、建築基準法第2条第3号に記載された「建築設備」の条文をもとに、その定義、専門用語、具体例、例外、確認申請との関係についてわかりやすく解説します。
条文(建築基準法第2条第3号)
建築設備:
建築物に設ける電気、ガス、給水、排水、換気、暖房、冷房、消火、排煙若しくは汚物処理の設備又は煙突、昇降機若しくは避雷針をいう。
条文を簡単に言い換えると?
建築設備とは、建築物の中に設けられる以下のようなインフラ系・安全系・機能系の設備を指します:

- 電気、ガス、水まわり(給水・排水)
- 空調(換気・暖房・冷房)
- 防災(消火・排煙)
- 衛生(汚物処理)
- その他:煙突、昇降機、避雷針
これらはすべて、建築物の使用にあたって欠かせない設備であり、建築計画の設計・申請・施工・検査においても重要な検討対象です。また、「建築設備」は、建築基準法二条1号でも説明した建築物にも含まれます。
建築確認申請との関係
建築確認申請(建築基準法第6条)では、建築物本体の構造・用途だけでなく、建築設備の配置・機能・構造も確認対象です。特に改修や取り替えなどで確認申請が必要な場合があるので注意が必要です。
● 建築設備が確認の対象となるケース
- 建物新築時
新築時には、新築確認申請に加え、建築設備の設置に関する図面・仕様書の提出が必要となります。 - 建築物の用途変更時
例えば、「事務所ビルの一部を有床診療所に用途変更」するという場合、設備の改修が必要となることがあります。用途が変わることで特殊建築物として扱われるようになると、設備要件が変わることから確認申請が必要となります。 - 建築設備単独の改修(例:昇降機の取替)→ 建築設備工事として届出・確認が必要なケースもある
改修の規模であったり、建物の影響への大小によって確認申請の有無は変わってきます。
条文中の専門用語とその解説
以下、条文中の設備区分を一つずつ専門的に解説します。
■ 電気設備
電力供給のための配線・分電盤・照明・非常用電源など。
特に感電・漏電対策、非常時の誘導照明や換気用電源確保などが重視されます。
■ ガス設備
都市ガス・プロパンガスなどの配管・供給・制御装置等。
爆発リスクがあるため、建築基準法に加え、ガス事業法・高圧ガス保安法の規制対象となります。
■ 給水・排水設備
- 給水:受水槽、揚水ポンプ、給水管など
- 排水:汚水管、雑排水管、グリストラップ、トラップ
建物の構造・用途に応じて勾配・空気圧バランス・防臭対策などが設計に影響します。
■ 換気設備
室内の空気を入れ替える機械換気(強制)または自然換気。
とくに地下室、トイレ、浴室、厨房、病室などは設置義務がある場合があります。
■ 暖房・冷房設備
いわゆる空調設備(ヒートポンプ、ボイラー、チラー、FCUなど)。
エネルギー効率(省エネ法)や静音性、結露対策などが求められます。
■ 消火設備
消火器・スプリンクラー・屋内消火栓・水噴霧設備など。
消防法との連携が強く、用途・延べ面積・階数により義務内容が変化します。
■ 排煙設備
火災時に発生する煙を排出する設備。
- 自然排煙(排煙窓など)
- 機械排煙(排煙ファン+ダクト+防火ダンパー)
避難安全設計において非常に重要な設備の一つです。
■ 汚物処理設備
し尿・生活排水などを浄化・処理する設備(浄化槽・ポンプ室など)。
下水道法・浄化槽法との法令調整が必要です。
■ 煙突
燃焼設備(ボイラー、ストーブ等)からの排煙を外に導くための管。
高温・煙圧に耐える構造が必要で、設置高さや火気からの離隔距離も定められています。
■ 昇降機
エレベーター、ダムウェーター(荷物用昇降機)、エスカレーターなど。
昇降路の構造、耐震性、非常用機能が重要で、労働安全衛生法にも関係します。
■ 避雷針
落雷による建物の損傷・火災を防止するための設備。
建物の高さ・立地によっては設置義務や構造要件が発生します。
3. 建築設備の具体例
設備名 | 建築設備か? | 備考・理由 |
---|---|---|
非常用照明 | ○ | 電気設備に含まれる |
EV(エレベーター) | ○ | 昇降機に該当 |
非常用発電機 | ○ | 建築物に附属する場合 |
浄化槽 | ○ | 汚物処理設備 |
外構の照明(庭園灯など) | △ | 建築物に附属しない場合は非該当の可能性あり |
Wi-Fi設備 | × | 通信設備であり建築設備には含まれない |
防犯カメラ | × | 建築基準法上の「建築設備」ではない(セキュリティ機器) |
インフラなど必要不可欠な設備が「建築設備」となっており、Wi-Fiや防犯カメラといったインフラ系とは少し異なる設備は建築設備には含まれないようですね。
例外・留意点
● 一時的または独立性の高い設備は含まれない
- 仮設電源
- 移動式発電機
- 可搬式暖房器具(例:電気ストーブ)
これらは、建築物に恒常的に附属していないため「建築設備」には該当しません。
● 設置場所や用途によっては対象外となることもある
例:
- 敷地外のポンプ設備 → 建築設備ではなく「外構設備」扱い
- 移動可能な給排水設備 → 仮設設備として建築設備に含まれないことがある

まとめ
建築設備とは、建物の機能・安全・快適性を支える不可欠な設備であり、建築基準法上も明確に定義されています。
✅ 建物に附属する各種ライフライン・安全・衛生・空調設備を広く含む
✅ 他法令(消防法・浄化槽法・労安法等)との調整が必要なものが多い
✅ 建築確認申請でも審査対象となり、計画段階から設備の整合性が重要
建築物を安全・快適に機能させるためには、構造設計だけでなく、建築設備の法的整理と設計対応が欠かせません。
設計者・設備設計者・施主が協働し、法令順守と性能確保を両立することが求められます。
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