建築基準法における「建築物」の定義とは?
はじめに
建築基準法では「建築物に該当するかどうか」が法適用の前提条件となり、設計・確認申請の可否、構造・防火などの規制の有無が左右されます。この記事では、建築士・設計士、そして法学・都市計画を学ぶ学生を対象に、建築基準法 第2条第1号における「建築物」の定義について、条文の解説、用語の詳細説明、具体例と例外までを体系的にまとめました。
建築確認申請との関係
「建築物」に該当するかどうかは、建築確認申請が必要か否かを判断するうえで極めて重要な分岐点になります。
建築基準法第6条第1項では、「建築物」を新築・増築・改築・移転する際に、一定の条件を満たす場合は建築確認申請を行い、確認済証の交付を受けることが義務付けられています。
● 確認申請が必要となる建築行為の条件(例)
- 都市計画区域内・準都市計画区域内で
- すべての新築建築物
- 増築・改築・移転で10㎡を超えるもの
- 防火地域内での木造建築物(小規模でも)
また、防火地域内では、木造に限らず、建築物の規模や用途によっては非木造建築物でも確認申請が必要となる場合があります。このように、建築物に該当するかどうかによって、「建築行為」自体が法的に申請・審査の対象になるかが決まるのです。
● 建築物に該当しないと判断された場合
建築確認申請の必要がないため、建築基準法の適用を受けません。ただし、
- 他法令(都市景観条例、農地法、消防法など)の規制対象である可能性
- 「工作物」として建築基準法第88条の適用対象になるケース(高さや安全性)
があるため、油断は禁物です。
● 境界事例では自治体との事前相談が不可欠
プレハブ建物や仮設構造物、コンテナ倉庫、テント倉庫など、**建築物か工作物か判断が難しいケースでは、自治体の建築主事への事前相談(いわゆる「協議」)**が非常に重要です。
特に以下の点を確認します:
- 恒久的か一時的か
- 人の滞在・出入りがあるか
- 給排水・電気設備等が接続されているか
- 敷地に固定されているか(基礎やアンカー等)
● 誤って未申請で設置すると…
仮に「これは建築物ではないだろう」と判断して確認申請をせずに設置した結果、後から行政によって「建築物」と認定されると、違反建築物として是正指導・撤去命令等の対象になります。
実務では「面積10㎡未満だから申請不要」などの誤解も多いため、面積以外の要件(屋根・柱・定着性など)にも十分注意が必要です。
建築物の定義は、単なる知識ではなく、実務判断や設計の出発点に直結する基礎中の基礎です。
確認申請が必要かどうか迷う場合、また建築物か否かの線引きが曖昧な事例に直面した場合は、自己判断に頼らず、法令・通知・通達、そして自治体との協議を通じて慎重に対応することが求められます。
建築基準法第2条第1号の条文(原文)
建築物:土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
条文を簡単に言い換えると?
建築物とは、以下のような条件を満たす構造物です。
- 地面にしっかりと固定されていて、
- 屋根と柱、もしくは壁があり、
- それに付属する門や塀も含まれ、
- 観客席のような構造物や、
- 地下・高架内の施設も対象になる。

ただし、鉄道の運転保安施設や駅のホーム屋根などは除かれており、建物内部の設備も「建築物」の一部として扱うというのがポイントです。
条文に含まれる専門用語の解説
● 土地に定着する
「容易に動かせず、地面に固定されている」状態。基礎やアンカーなどで物理的に固定されているほか、長期使用や設備の接続があれば定着性があると判断される。
● 工作物
人が作った構造物のうち、建築物以外も含む広い概念。ダム、電柱、看板なども含まれる。
● 屋根・柱・壁
- 屋根:雨風を防ぐ上部構造。テント生地でも恒常的であれば該当。
- 柱:屋根や構造を支える垂直材。1本でも該当する。
- 壁:仕切り・囲いの機能を持つ面構造。完全に囲まれていなくてもOK。
● これに類する構造のもの
屋根+柱/壁と同等とみなせる構造。
例:1層2段式自走式駐車場など。

● 附属する門・塀
建築物と一体化して機能している門や塀は建築物に含まれる。
● 観覧のための工作物
観客席・スタンドなど。屋根がなくても建築物とみなされる。
● 地下または高架構造物内の施設
地下街、高架下の店舗など、独立した屋根がなくても「囲まれた空間に施設を設けた」ものは建築物。
● 建築設備
電気、空調、給排水、防火、避難などの設備は「建築物の一部」として扱われる。
建築物に該当する具体例
具体例 | 該当性 | 理由 |
---|---|---|
一戸建て住宅 | ○ | 屋根と壁、土地に定着している |
プレハブ事務所 | ○ | 屋根・柱あり、恒久設置なら定着とみなされる |
自走式立体駐車場 | ○ | 屋根に類する構造、構造一体性がある |
地下街の店舗 | ○ | 地下構造物内の施設として条文に明記されている |
高架下の倉庫 | ○ | 高架構造内で機能を持つ施設 |
大型常設テント | ○ | 屋根・柱あり、定着していれば建築物 |
カーポート | ○ | 屋根・柱があれば壁がなくても該当 |
建築物に該当しない具体例
具体例 | 該当性 | 理由 |
---|---|---|
キャンプ用テント | × | 一時的で定着性がない |
移動販売車 | × | 車両であり、常時移動可能 |
鉄道ホームの上屋 | × | 条文で明示的に除外されている |
信号設備(鉄道) | × | 鉄道の運転保安施設として除外対象 |
大型タンク(貯蔵槽) | × | 特定用途の設備として除外対象 |
更地にある独立塀 | △ | 建築物に附属しなければ規模や構造次第で対象外の可能性あり |
条文で明示された「建築物の例外」とその理由
条文のかっこ書きでは、「以下のような施設は建築物に含まない」とされています。その背景には、建築基準法の規制がそぐわないことや、他法令によって規制がなされていることがあります。
● 鉄道・軌道の線路敷地内の運転保安施設
理由:
これらの施設は鉄道の安全運行を担うものであり、建築基準法の構造・防火規制になじまない。また、鉄道事業法など別の法律で安全性が確保されている。
具体例:
- 信号機器室
- 踏切制御設備
- 架線柱や通信施設
● 跨線橋(こせんきょう)

理由:
駅施設であり、利用目的が「通路」であり建物のように人が長時間滞在することを想定していない。また、鉄道会社の施設として建築物とは異なる法体系で管理されている。
具体例:
- 駅のホーム間をつなぐ歩行者用橋梁
● プラットホームの上家(うわや)
理由:
構造的には屋根+柱の形をしていても、鉄道施設として建築基準法の建築物に含まない。運転保安施設と同じく鉄道事業法等で規定される。
具体例:
- ホーム上の雨除け屋根
- ホーム支柱付きのシェルター
● 貯蔵槽
理由:
タンクやサイロなどの設備は、人が居住・滞在する空間を持たず、建築物の用途とは異なる。内容物の危険性に応じて、消防法や高圧ガス保安法の対象。
具体例:
- 石油貯蔵タンク
- 穀物サイロ
- 液化ガス容器
● その他これらに類する施設
理由:
明確に列挙されていないが、同様の性質(鉄道事業専用設備・大規模産業用構造など)を持つ施設も建築物とはみなされない。
具体例:
- プラント配管タワー
- 駅構内の線路信号設備室
- 火力発電所内の設備構造物
まとめ
建築基準法での「建築物」の定義は、法適用の起点であり、建築確認の要否、法規制の範囲を決める重要な概念です。
- 屋根+柱/壁+土地への定着が基本要件
- 附属物や観覧席、地下・高架施設も含まれる
- 一方で、鉄道施設や貯蔵設備などは除外されている
判断が微妙な事例では、用途、構造、恒久性などを総合的に見て判断されます。設計・計画の段階で早期に確認を行うことが、安全かつ適法な建築の第一歩です。
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