建築基準法における「主要構造部」の定義と実務上の取扱い-第二条第五号をわかりやすく解説-

目次

はじめに

建築基準法において「主要構造部」は、耐震性・耐火性・構造安全性などの根幹に関わる要素であり、構造種別の判断(耐火建築物・準耐火建築物など)や建築確認審査において極めて重要な概念です。

この記事では、第2条第5号の定義をもとに、専門用語の解説、該当・非該当の具体例、例外、建築確認との関係までを整理して解説します。


原文(建築基準法第2条第5号)

それでは、早速建築基準法二条五号の原文を確認していきましょう。

主要構造部
壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。


条文を簡単に言い換えると?

「主要構造部」とは、建物を支える・固定する・構造的に成立させるために必要な部材を指します。
基本的には以下が対象です:

  • 壁(耐力壁)
  • 柱(構造柱)
  • はり(梁)
  • 屋根
  • 階段(構造体に組み込まれるもの)

ただし、これらに似た形状でも構造上重要でない部分(仕上げ・演出的・付加的な部材)は除外されます。


条文中の専門用語解説

用語解説
耐力壁や耐火壁など、構造的に建物の安定性に関わる壁(間仕切壁ではない)
建物の鉛直荷重や地震力を支える主要な柱。装飾柱は除外。
建物の各階を構成する面で、人や荷重を支持する構造体。最下階の床は除外される。
はり(梁)柱と柱をつなぎ、床や屋根を支える水平構造材。小ばりは除外されることがある。
屋根雨や日射を防ぎ、上部構造として構造体に関与する部分。
階段建築物の内部構造として設けられる階段(屋外階段や小階段は除外対象)

除外されるもの(=主要構造部に含まれない

以下の部材は、構造的には主要ではないとされ、法的には「主要構造部」から除かれます。

除外される部材理由
間仕切壁空間を仕切るだけで、構造的負担を担わない
間柱壁下地を支えるだけで、構造強度に寄与しない
付け柱見せかけの装飾柱であり、荷重を負担しない
揚げ床(フローリング下地)構造体ではなく、内装的な床上げ
最下階の床地盤上で構造に直接関与しないため(※地盤に固定)
回り舞台の床舞台装置であり構造体に含まれない
小ばり(補助的梁)構造設計上主要な役割を持たないもの
ひさし雨除け程度で構造躯体の一部ではない
局部的な小階段構造耐力に影響しない小規模階段(屋根裏用階段など)
屋外階段外付けで構造体に組み込まれないもの

間仕切り壁のイメージ図

建築確認申請との関係

主要構造部は、建築基準法における構造・防火規制の核心的な対象であり、建築確認申請においても審査の重点項目となります。
特に、主要構造部の変更・新設・撤去・仕様変更が発生する場合には、建築確認の要否、構造計算の再実施、審査項目の追加などが求められるため、実務上は慎重な判断が必要です。

✅ 主要構造部が関わる法規制の代表例

法規制関連項目
耐火建築物の定義(法第2条第9号)主要構造部を耐火構造にする必要がある
構造耐力上主要な部分(施行令第1条)地震・風圧に耐える構造検討が必要
準耐火建築物の規定(令第108条)主要構造部の耐火被覆等が求められる
大規模建築物の改修主要構造部を触る工事は確認申請が必要な場合が多い

確認申請が必要となる典型例

耐力壁を撤去して開口部を設ける
 → 構造耐力に関わるため、確認申請の対象となる

耐力壁とは、地震・風圧等の水平力に対して建物の倒壊や変形を防ぐための壁です。
この耐力壁を撤去して窓やドアなどの開口部を新設する場合、建物の構造安全性が変化するため「構造計算の再評価」が必要になります。

適用法令:

  • 建築基準法第6条(確認申請の義務)
  • 施行令第1条(構造耐力上主要な部分)

実務上の留意点:

  • 撤去箇所が筋かいや構造用合板を含む壁だった場合は、明確に構造計算対象
  • 一戸建て木造住宅でも、壁量計算のやり直しが必要なケースあり
  • 意匠的には小さな窓でも、構造的には重大な変更となることもある

梁補強・小梁の架け替え工事
→ 主要構造部に該当すれば、工事規模に応じて確認または届出が必要

詳細:
梁(はり)は床・屋根・壁などの荷重を柱へと伝える水平方向の構造材であり、建築基準法上の「主要構造部」に該当します。
そのため、既存の梁を撤去・新設・補強する場合には、構造耐力に関わる変更と見なされ、原則として建築確認申請が必要です。

ただし:

  • 架け替えが「同等性能」であり構造的な影響が軽微な場合、設備等設置届出で済むケースもある(自治体判断による)

適用法令:

  • 建築基準法第6条
  • 施行令第1条・第81条(大規模の修繕・模様替え)

実務上の留意点:

  • 梁の寸法・材料が変更される場合(例:木梁から鉄骨梁に変更)は必ず確認が必要
  • 天井内に隠れている「小ばり」でも、耐力を担っていれば確認の対象となる
  • 既存不適格(旧耐震基準)建物では、補強方法次第で全体の構造再計算が求められる場合もある

屋内階段の構造変更(例:スラブ一体型から鉄骨階段へ)
 → 構造形式・接合部により、再審査対象となる可能性あり。

詳細:
階段も主要構造部に含まれます(第2条第5号)。

  • 支持方法が「一体構造」→「点支持(アンカー等)」になる
  • 壁・床との接合条件が変わる
  • 重量・剛性が変わり、地震時の応答も異なる可能性

これにより、構造計算の前提が変わるため、申請が必要になることがあるのです。

適用法令:

  • 建築基準法第6条、施行令第1条(主要構造部)
  • 構造計算ルートの変更が生じた場合、再審査の対象

実務上の留意点:

  • 構造計算ルート(ルート1〜3)の要件に合致しているかを再確認
  • 接合部ディテールの設計が求められる(特に鉄骨・RCの混在構造では)
  • バリアフリー法や消防法とも整合させる必要が出る可能性あり

具体例で見る主要構造部の判断

主要構造部に該当するかどうかは、見た目だけではなく「その部材が構造的な役割を持っているかどうか」が判断基準となります。以下の表では、代表的な建築部材が主要構造部に該当するかどうかを例示し、それぞれの理由を明示しています。

部材該当性解説
鉄筋コンクリート造の梁構造的に主要
在来木造の筋かいを含む耐力壁耐震上重要
2階床の合板+根太荷重支持面としての床に該当
天井裏の軽量鉄骨×下地材で構造体ではない
飾り梁(装飾用)×荷重を負担しないため
木造住宅の間柱×石膏ボードの支持が主目的

このように、同じ「柱」や「壁」でも、構造への寄与の有無によって「主要構造部」に分類されるかどうかが分かれます。そのため、設計時には構造計算書や構造図面と照らし合わせながら、確認申請や耐火区分の検討において注意深く判断する必要があります。

まとめ

  • 主要構造部とは、建物の構造上欠かせない部材(壁・柱・床・梁・屋根・階段)を指す。
  • 装飾・間仕切りなどの構造に寄与しない部材は除外される。
  • 耐火・構造安全・耐震設計の基準に深く関与するため、設計・確認申請・工事の各段階での理解が不可欠
  • 曖昧なケースでは、自治体や構造設計者との協議を通じて明確に線引きを行うことが推奨される。
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